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(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)

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2005-05-19

[economy][BOJ]再び赤字の悪夢?

5/13付「「通貨発行益(シニョリッジ)をめぐる勘違い」の勘違い」につきまして、馬車馬さんに「「お金であること」を保証するもの」と題して前編後編にわたり取り上げていただきました。これについては、色々書きたいことはあるんだけどその辺はbewaadさんが書くだろうから(笑)svnseedsさんからご指名を受けてしまったので、再度論じてみます(基本的に「前編」は準備体操なので、主として「後編」を取り上げます)。

#svnseedsさんとは逆に、svnseedsさんが書いたインフレ税を巡る議論はお任せして割愛します。

後編はまず、「貨幣が負債である理由」と題されたセクションからはじまりますが、ここで馬車馬さんは紙幣が負債であることを、パン屋からパンを借りて証文を出す事例から説き起こし、証文=紙幣なのだから負債である、と結論づけています。これはちょっと違うのではないでしょうか。

通常、お金を借りればバランスシートには「借入金」という科目を立てますから、その延長線上で考えればパンを借りてもあくまでバランスシート(の負債)に計上されるのは「借入パン」であって(この際、同時に資産に「パン」が立ちます)、紙幣であるはずもありません。馬車馬さんの例えが正しいのであれば、かつての(債券)貸借方式でレポ取引をした場合において、わざわざ現金担保を使わなくても、証文で(少なくとも日銀は)足りるはずです。

#昔は有価証券売買には有価証券取引税が課せられたので、本来売却と買戻しがセットとなったレポ(=repurchase(買戻し)の転訛)取引では往復の売買で課税されるため、わざわざ債券の貸し借りとして法的には構成をし、現金は売買代金ではなく借りた債券の担保の移動という形にして行っていました。

ですから、パンを借りるオペレーションで言うなら、単に借りただけでは馬車馬さんのおっしゃるように買ったこととは同等にはなりません。借りたパンを返せない場合には没収して下さいと現金を担保として差し入れて初めて、パンの購入と同等になる(=パンと現金を交換する)ことになるのです。

ところがこの場合の経理処理は、バランスシートの右側はどうでもよくって、単に左側において保有現金がパンに置き換わるだけです。結局、オペからスタートして考察を進めることは、発行した紙幣をバランスシートの右側においてどのように位置づけるかという問題について、何ら解答をもたらすものではないのです。

続く「お金の裏付けと物価の番人」と「バランスシート:物価の番人の剣にして鎧」のセクションについては、webmasterのエントリで言えば日銀の資産は通貨発行主体としての都合ではなく金融政策実施主体等としての都合で決まると論じた部分、および通常は好き勝手に紙幣を発行すればインフレになると論じた部分と内容は同じでしょうから、特に触れません。

最後の「ところで、通貨発行益(シニョリッジ)について」のセクションですが、馬車馬さんはwebmasterの主張を取り違えられたのではないか、と思います。どうもwebmasterがいわゆるシニョレッジを利益とすべきだと主張している前提で書かれているようですが、webmasterは通貨発行主体にとって負債と資本(⊃利益)の違いはまったくもってどうでもいいことですとか、シニョレッジ=通貨発行「益」という訳語に抵抗があるなら、通貨発行差金とか、どうやって訳したっていいとしておりまして、言葉の定義の問題に過ぎないとする馬車馬さんと違いはないはずです。

その前提で馬車馬さんの誤りを指摘させていただきますと、上でも書いたように、これは単にバランスシートの両側が増えただけのことであって、利益ではありえない。もし利益だというなら、昨今の金融緩和で日銀は巨額の利益をたたき出していないとおかしいというのは、まず「上でも書いた」というバランスシートの両側増加は、既述のとおりバランスシートの右側を制約するものではありませんから、別に資産・負債の両側を増やすと限ったものではなく、資産・資本(⊃利益)の両側を増やす構成も次のとおり可能です。

原価20円の紙やインクでこしらえた何らかの財が、例えば国債といった1万円と評価される他の財と物々交換で売買された場合、この取引だけに着目して企業会計原則に従って経理処理をすれば9,980円の利益が立ち、バランスシートで見れば資本が9,980円増加します。前回のエントリでwebmasterは将来のキャッシュアウトを見込んで負債処理だと言ったじゃないか、という反論があり得るでしょうけれど、前回紹介したとおり紙幣の平均寿命は3年から4年ですから、万札1枚あたりその寿命を3年と見込むなら3,333円、4年と見込むなら2,500円を「紙幣交換引当金」なり「紙幣交換準備金」なりとでも称する科目に毎年繰り入れることとすれば足ります。

#この場合、毎年の繰入れは費用科目になりますから、純利益計上額は6,667円ないし7,500円@万札ということになります。為念。

もっと過激に考えれば、どうせ紙幣を交換する際にはまた20円遣って用意すればいいという点に着目して、かかる引当金や準備金繰入れすらしない経理処理すら、企業会計原則の一部分のロジックを用いて正当化可能です。

このような経理処理をすれば、日銀は毎年巨額の利益をたたき出すことになります。webmasterが思うに、馬車馬さんはシニョレッジが利益か負債かは言葉の定義の問題としつつ、現に負債で処理されているという実態に引っ張られてしまったのではないでしょうか。日銀が毎年巨額の利益を計上していないのは、シニョレッジを負債で処理することとしている結果であって、つまりは言葉の定義の問題です。定義を変えれば利益は出てきます。

結局、前回も書いたことですが、通常の企業経営において行われる経済活動について、共通の性質をくくりだして比較可能なルールとして定められた企業会計原則において、通貨発行という一国に唯一の主体が行う経済活動を正しく記述する科目が存在しないのは当然です。通貨発行という活動が有する様々な性質のどれに着目するか次第で、当たらずとも遠からずの各科目の何に当てはまるかが変わってくるからこそ、シニョレッジが負債か利益かは定義の問題なのです。負債だからどうとか、利益だからこうとか、当てはめた結果から性質を逆算して考えるのは誤りなのです。

ところが馬車馬さんも指摘するとおり、このような経理処理をする中央銀行は、webmasterが知る限りではこの世に存在しません。魚のホネでも貨幣になるのだから、中央銀行の負債として扱うなんて面倒くさいことする必要ないじゃん、とつい考えてしまうのだが、それでは現状ほとんど全ての中央銀行が貨幣を負債としている理由が説明しづらい。もちろん、兌換貨幣や金本位制時代の名残と言い切ってしまっても構わないのだが、惰性の一言で説明してしまうのは無理がありすぎるとの馬車馬さんの問題意識に対して、webmasterなりに惰性の一言ではない説明を考えると、次のようなものとなります。

馬車馬さんが指摘するとおり、また、前回紹介したWitte先生のテキスト(使用許諾を求めるメールを送付したらNorthwestern Universityのメールサーバからunknown addressと突き返されたのですが、今はどこにいらっしゃるのでしょうか・・・)にあるとおり、政府支出をシニョレッジ財源でまかなうと非常に激しいインフレにつながることは経験的によく知られた事実ですし、いわゆるバーナンキの背理法で証明可能です。

通貨発行権は歴史的に政府権力の一部をなし、そこから独立した中央銀行に付与されたものですが、政府から見れば、自分が委任した通貨発行権の行使により利益が生まれるのであれば、それを召し上げようとするのは自然なことです。

ですから、不用意にシニョレッジを利益計上しようものなら、それを国庫納付せよと求められる危険があります。納付された利益を(狭義の)政府が支出財源に回せば、すなわちシニョレッジによる政府支出のファイナンスになりますから、インフレのリスクが高まってしまうのです。

(狭義の)政府が十分に賢明であれば、利益計上しておいてもそれを召し上げようとはしないでしょうから、中央銀行が広義の政府から独立する以前の慣習を変更することなく利益計上しておいてもよいわけです。十分でなくてもそれなりに賢明であれば、利益計上と一定水準の内部留保を義務づけるルールの組み合わせで国庫納付を制限すれば問題ないでしょう。しかし不幸なことに、それだけの賢明さがない場合があり得るからこそ、負債という形式で経理し、シニョレッジによる政府支出ファイナンスを回避するという技術が普及したのではないでしょうか。

シニョレッジを負債として経理しているからこそ、自己資本比率がどうのこうのといった、つまりは赤字についての批判が出てくるわけですが、それはシニョレッジを貪欲な政府から守るための見返りということになります。もちろん中央銀行がどんどん赤字を出せば、統合政府(狭義の政府+中央銀行)ベースで考えれば狭義の政府によるシニョレッジの使い込みと同じ効果が生じますが、そうでなくたまに赤字になる程度のことは、それが騒がれれば騒がれるほど、賢明なるセントラルバンカーにとっては囮の絶大なる効果にほくそ笑むこそあれ、何ら思い悩むことではないわけです。

この意味で、通常「中央銀行の独立性」といいますと、一つには金融政策実施手段の選択は中央銀行の専権事項とし政府の介入を許さないこと、一つにはその実効性を担保するために人事において政府の介入を制限することの二本柱がその意味するところですが、シニョレッジの負債計上はこれらと同一の目的を有する、広義の「中央銀行の独立性」の構成要素と位置づけられるのではないでしょうか。

#この政府不信をさらに推し進めますと、bank.of.japanさんにシニョレッジとは発行通貨の運用益であると教えた日銀の知り合いの人(ちなみにカナダ中銀サイトでも同様の説明がなされていますから、別に日銀だけを言挙げする趣旨ではありません)のように、シニョレッジの定義自体を変えてしまうという「独立性」に至るのかもしれません。そうした用法をであるなら、通貨発行に由来する部分、すなわち通常想定される資金調達コストを要さないという部分のみが通貨発行という無コスト資金調達手段の行使に由来する利益、すなわちシニョレッジと称すべきで、通常想定される資金調達コストと資金運用収入とのスプレッド部分はシニョレッジではないだろう、とwebmasterは思うのですが・・・。

なお、このテーマにつきましては、次のページで違った観点から議論が発展しています。あわせてご覧いただくことを強くお薦めする次第です。

「インフレーションの形」(@HPO:個人的な意見<br>ココログ版5/9付)

経済学とは全く無縁と思われるテーマからスタートして、最後にはデフレの「痛み」に着地するエントリですが、モデル中のセルの値として、名目値と実質値の両者を計測するようにするとさらにおもしろい結果が出てくるのではないかと思ったりします。素人のまったくの当てずっぽうですが(笑)。

「シニョレッジ」(@裏鹿5/16付)

Ljungqvist and Sargentのモデルを用いて、オペ手段による金融緩和効果の違いについて論じられていますが、その中核部分はwebmasterには全くついて行けない世界でして、当エントリに飽き足らない方々にお薦めです(どうでもいい話ですが、Ljungqvistは「ルユンクヴィスト」と読むらしいです、ということぐらいしか付け加えられる情報がありません(笑))。

「貨幣とは素数である。ナンダソリャ!?」(@徒然なる数学な日々5/17付)

bewaadさんのようにサラっと日銀のバランスシートの特殊性にのみ着目して流す流儀に賛成とおっしゃっていただいたのに、今回は粘着してしまいました・・・。ところでwebmasterが思うに、貨幣は素数というより重力子といいますか、万有引力の本質とは何かという考察に似ているような気がします。それを見いだせば歴史に残る業績なのでしょうけれども、わからなくてもとりあえずできることはいろいろある、というあたりですが、いかがでしょう。

#svnseedsさん、webmasterの引き出しではこれぐらいしか論じられませんでした。「あれは書いていないのか!」といった点が残っていましたら、是非とも取り上げていただければ。

本日のツッコミ(全9件) [ツッコミを入れる]
韓流好きなリフレ派 (2005-05-19 07:43)

実はこのテーマ最初に投げかけた人をまったく信頼してないので興味がなかったのですが、上に紹介されている裏鹿さんの議論を見てちょっと思い出しましたが、

韓流好きなリフレ派 (2005-05-19 08:36)

いけない。最初の一文、勘違い(isologueではないのですんまそ)したので削除しようとしたらenterキーを押してしまった
(ーー;)。すべては日銀と政府の先週からの確執のせいですって違うか…。

途中送信の部分書こうとしたら時間がないので簡単に感想を書くと

1 財政赤字のファイナンス(貨幣ばら撒きor国債発行または両方)とインフレ経路(発散するか収束するか)の話を考える際に、シニョレッジ自体の水準がどんな関係にあるのかは一概にいえない。
2 例えば歴史的に観測されていてネット上でもなじみのある戦前のハイパーインフレーションのケースでは、通貨発行益の最大値ではない水準まで貨幣はばら撒かれた。
3 しかしこの戦前のケースではハイパーインフレーションになったが、同じ状況でも理論的な可能性では、ハイパーインフレにはならずインフレが収束したり、あるいは乱高下を繰り返す可能性さえも否定できない。
これらハイパー、インフレ収束、乱高下のある時点をみてみるとそこでの通貨発行益は同じ水準でありえる。
4 これはいまの議論で会計的に話が展開されているが、シニョレッジの時点時点の水準は経済的には意味が乏しく、むしろインフレ経路自体に通貨発行益が重要性をもってくるのは、期待の役割いかんじゃないのか、と思ってみるテスト(というか教科書にでているレベルで書いたんだけどね)。

あと貨幣発生というか貨幣がなぜ猛烈なハイパーでも使用されるかは、やはりヒックスの厄災点の問題なんだろうなあ。

韓流好きなリフレ派 (2005-05-19 08:47)

連続すまんですm()mしかももう群馬にダッシュせねば 汗。

直近でも書いたですけど<シニョレッジの時点時点の水準は経済的には意味が乏しく>ですので、ましてや会計の定義でシニョレッジをどう呼ぶかなどはほとんど意味なしレス。

銅鑼衣紋 (2005-05-19 13:05)

まいど。

金利収入がシニョリッジなのは正しいわけですが、長期国債を買っ
ても、なぜか当期の金利収入だけしか計上しないのが、お茶目(笑)

無限のロールオーバーを前提にして、永久国債で議論しましょう。
その買いオペした金額である「債券の市場価格」は、将来の金利
収入ストリームの現在割引価値ですよね。つまり、原価20円で
仕入れた紙で、現在価値で表して9980円の将来金利収入を得る
ことができるわけです。

やっぱり、シニョリッジは、額面−印刷コストじゃないですか(笑

銅鑼衣紋 (2005-05-19 23:05)

トラックバックで読ませていただいたnight_in_tunisia氏へのコメント(彼の所にはコメント欄ないようなので店先おかりします>マスター)

night_in_tunisia氏は、貨幣の中立性と関係ないと言ってるけど、ど
うなんでしょう?普通の議論では、実質産出量は一定で、政府が資源を
利用すると、なんらかの形で民間の購買力を奪わなければならないが、
課税なしで貨幣増発でファイナンスすると、それによるインフレで民間
の保有する貨幣の実質残高が減少し購買力が低下して、辻褄があるわけ
でしょう。だから、やっぱり(実質生産一定の前提では)実質シニョリッ
ジの議論は、インフレ課税のこと、つまり再分配の話なんじゃないでし
ょうか?

問題は、実質所得が果たして一定なのか?という点。まあ、これを議論
し始めると、現代の標準的動学マクロ経済学では、いわばシニョリッジ
による再分配で資本蓄積を高めるから産出量増加ということになるんで
しょうが。こういう話には、相変わらず、僕は納得しないけど(笑)

bewaad (2005-05-20 06:56)

>先生方
会計面の瑣末な話にとどまっているのは、ご案内のとおりとどめているのではなくとどまらざるを得ないからでして、より本質的な話に発展させていただけるのはエントリを起こした甲斐があったとうれしく思います。講義を受ける気分でよくかみ締めさせていただきます。

今後ともよろしくお願いいたします。

bewaad (2005-05-20 06:58)

>ドラ様
どうぞご存分にお使いください。というより使ってもらえてとてもうれしく思います。

svnseeds (2005-05-21 03:33)

どうも御礼が遅れてすみません。ていうかなんか仕事増やしちゃってすみません・・・。

まだちゃんと考えきれてないんですが、個人的に一番気になったのは「金融政策とは中央銀行のバランスシートコントロールに他ならない」ってとこなんですよ。そもそも中央銀行としてのバランスシート(や利益)なんかどうでもよいのに、いつの間にかそれが話の中心になってしまっているところが奇妙だなと。

本来それはただの結果の話なのに、たぶん日銀の人たちは本気でそれを信じているんだろうな、と思わせる奇妙な説得力があってちょっとぞっとしました。

bewaad (2005-05-21 05:33)

>svnseedsさん
バランスシートというのはある種のものさしですから、表れている姿を見間違えていないか(センチとインチを間違えてないかとか(笑))、図り方をずるしていないかといったことに留意しさえすれば、それを見て評価するのは全然問題ないでしょうけれど、往々にして数字合わせをされるのは困りものですよね。

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再び、bewaadさんの[economy][BOJ]再び赤字の悪夢?に触発されてのエントリ。 シニョレッジとは何か、という部分にも熱い視線が投げられているようだけど、若干の混乱が見られるようなので、さらなる混乱を招こうかと思う。 シニョレッジとは日本語では通貨発行益と訳され..

以前エクセルで作った正方格子の網膜フィルターモデルをActiveBasicで作り

各所でショニレッジの話題が盛り上がっておりますが、復活したドラエモン氏の &gt;&gt; やっぱり、シニョリッジは、額面−印刷コストじゃないですか(笑 &lt;&lt; で、以上終了。お金を自由に作れる機関にとって負債だの何だのが通常の意味をもたないなんてことわかりき..

さて、前回貨幣というものは皆が「他のみんなはこの貨幣を受け取るだろう」と信じてさ


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