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(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)

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2005-06-14

[law]人権擁護法反対論批判 マスメディア編(その2)

正論7月号の時沢和男「人権擁護法案に蠢く面々と果てなき日本の悲劇」を取り上げてほしいとのご要望がありましたので、取り上げることといたします。

何より申し上げたいのは、ある政策について議論がある際、何らかの意図を有する推進派がいることと、その政策が実現した際にその意図どおりに運営されるかどうかはまったく別問題であるということです。これが別問題でなくイコールであるとするためには、当該意図が政府の公式見解であるか、または当該推進派が当該意図の実現を政府に強いることができるだけの影響力を有することを論証する必要があります。

例えば憲法第9条を巡る議論で護憲派は、第9条改正を認めれば将来の徴兵制につながるおそれがあると主張しています。もちろん改憲派(のほとんど)はそのような主張をしておらず、またその合理性も認められないのですが、鳩山由紀夫民主党代表(当時)が徴兵制導入を唱えていたことを理由に改憲=徴兵制の入り口だと言われても、多くの改憲派は納得できないでしょう。それと同じことです。

#しかし、鳩山発言も香ばしいですなぁ。徴兵制はとらないことを原則としながら、万が一それで足りないときには、緊急事態法制の中で(徴兵制を)考えるべきって、緊急事態になってから徴兵して間に合うとでも思っているのでしょうか(これを泥縄と言わずしてなにを泥縄と言えるのでしょう(笑)。ちなみに、いわゆる赤紙は予備役招集であって新規徴集ではありません)。

さらに言えば、その意図なるものが時沢さんの主張するような全体主義的監視体制の構築であったとし、かつ、その実現の可能性が否定できないとして、その実現を防止するにはむしろ人権擁護法案が成立した方がベターです。というのも、その意図を実現するためには、少なくとも以下の点において現行制度の方が有利ですが、他方で人権擁護法案の方が有利なもの(行政府内で完結するものを見た場合)は前回述べたように正当事由なき検査忌避等への過料ぐらいなものです。

  • 現行制度であれば、法務大臣ただ一人を送り込めば各種の措置を講ずることができますが、人権委員会では過半数を占めなければ人権擁護法案に規定する諸措置を講ずることができません。
  • 現行制度であれば、行政に幅広い裁量が認められているため、
    • 例えばヘイトスピーチも人権侵犯であるとする余地がありますが、人権擁護法案に規定される人権侵害・差別助長行為等はどう解釈してもヘイトスピーチをその中に含む余地はないように、行政が動き得る対象が限定されます。
    • 例えば勧告やその公表をする際に対象となる者から意見を聴く義務はありませんが、人権擁護法案に基づく勧告やその公表においては人権委員会に当該義務が課せられているように、手続面において行政への制約を加える措置が講じられています。

#現行制度として人権関係以外まで視野に入れれば、人権委員会を乗っ取ることができるだけの政治力があるなら、国家公安委員会を乗っ取った方がよほど乗っ取り甲斐があるでしょうし。

結局のところ、時沢さんもいろいろな思惑がある可能性を指摘はできても、それらなくして政府が法案成立を目指さないとの論証もできなければ、現に法案が成立した暁には彼(女)らの思うがままに制度が濫用される蓋然性も論証できず、ドライビングフォースとしての国連に行き着いています。

意識的にか無意識的にか頬被りした櫻井さんとは異なり、国連の日本政府に対する圧力に触れた知的誠実さはすばらしいと思います。しかし、明らかなように、「差別」を国家権力が取り締まるべきだという「解放原理」が国連でも展開されている(p95)との記述はいただけません。時沢さんはいろいろと近年の動き、例えば人種差別撤廃委員会の最終見解を取り上げてその根拠とされていますが、この時沢さんの文脈に同調するとしても、別にこうした動きは日本に対してのみ適用されているわけではありません。

例えば人種差別撤廃委員会は日本と同様に人種差別撤廃条約のarticle 4に留保を付しているアメリカに対しても留保の撤回と立法措置を勧告していますが、同委員会は解同の圧力なり教唆なりによってアメリカにそのような勧告をしているとでも言うのでしょうか?

時沢さんの土俵の外に出れば、これらの人種差別撤廃委員会の動きは人種差別撤廃条約の規定にその正統性を依存していますから、近年の動きを取り上げるだけでは不十分で、そもそも人種差別撤廃条約が時沢さんの言う「解放原理」を部落解放運動から摂取したことを論証しなければいけませんが、まさか1966年にそれだけの政治力を解同が有していたなんておっしゃるわけではありますまい。

#国連を人権擁護法案推進派が操っているという陰謀論は、櫻井さんに対してはあくまで当てこすり(櫻井さんの言うことを突き詰めればそうなりますよ、という趣旨)として書いたものだったのですが・・・。

最後に極めつけの事実誤認を。

「過去を反省」しているはずのドイツで、毎日毎日、40件以上の「外国人排斥」事件が発生しているというのだ。中にはトルコ人を焼き殺すといった事件も発生している。「反省していない日本」では「マイノリティの中のマイノリティ」が国家元首を誹謗中傷しても、右翼に襲われたという話は聞いたことがない。全くふざけた話ではないだろうか。

こうした強力な法律が差別をなくすのか、より激しい憎悪を拡大させてしまうのか、われわれはドイツの外国人排斥事件の多さに学ばなければならない。「ワイマールの理想」がナチスを生み出したという歴史を想起すべきであろう。

(p97)

その1。ドイツにおける外国人比率は日本におけるそれ(在日韓国・朝鮮人を含む)の6倍以上ですので、民族間の摩擦が大きなものとなっても何ら不思議ではありません。加えて高い失業率や旧東ドイツ併合に伴う社会的軋轢など、民族対立を悪化させる他の要因もあります。それらに触れることなく過去の反省の有無のみに結びつけて論ずる方がよほど「全くふざけた話」です。

#ちなみに、webmasterは、この点においては時沢さんと見解は同じかと思いますが、「ドイツは反省していているが日本は反省していない」という見解は不正確だと考えています。

その2。ワイマール憲法体制下においてナチスが政権を獲得したのは何故かについては今もなおホットなテーマで諸説が闘わされていますが、少なくとも「ワイマールの理想」に人権擁護法案的な法制を含める見解は(まともな主張として一般に通用しているものの中には)存在しません。

#このエントリは、以下の一連のエントリの続編です。

本編
前編(3/13)後編上(3/14)後編下(3/15)趣旨説明編(3/29)faq編(4/9)
リジョインダー編
1(3/17)2(3/18)3(3/19)4(3/20)5(3/21)6(3/22)7(3/27)8(3/30)9(3/31)10(4/2)11(4/4)12(4/5)13(4/8)14(6/11)
法案分析編
1(3/24)2(3/26)3(4/1)4(4/10)5(4/11)6(4/14)7(5/21)
正誤訂正編
1(3/25)2(4/6)
百地教授編
1(4/20)2(4/21)
マスメディア編
1(6/10)

[law][government]カネになっていた行政法

「カネになる行政法」(@フランス公法学研究日誌6/11付)を拝読しての思ったのですが、日本では行政とのつきあい方(講学上は行政法各論になるのかな?)こそが一番カネになる分野ではないかと。要すればコンプライアンスとその周辺なのですが、最近一部業界(笑)を騒がせている木村剛さんのようなコンプライアンス系コンサルタント(その手の話に強い弁護士を含んでもよいでしょう)に対しては、少なくとも近年においては、結構なフィーが支払われているはずです。

手続については、結局実際に何かしようと思えば結局は個別法を参照せざるを得ないことが多いのですが、個別法の解釈において行政法学者はそこにほとんど存在していません。訴訟については、そもそも訴訟をしなくてすむ方法を企業は知りたいのでしょうけれども、その答えを行政法学者は持ち合わせていません。

まったくの思いつきとして、行政と民間との間には一定のコミュニケーションギャップがあり得るのですが、そのギャップを埋める主役はフランスであれば行政法学者、アメリカであれば弁護士、日本であれば天下りや企業側の対官庁部局ということではないでしょうか。鶏と卵の順序は定かではありませんが、つまり天下り等があるから行政法学者にとって参入が困難だったのか、それとも行政法学者がその分野を放置していたので天下り等が幅を利かせるようになったのかはわかりませんが、そんな気がします。

これが正しいとすれば、天下り等が排斥されつつある中で、冒頭のようなコンサルタント・弁護士が活躍し出すのは必然なのかもしれません。行政法学者は、まごまごしているとこのチャンス(=従来の行政と民間のチャネルが力を失いつつあり、替わりが何か定まっていないことです)においても取り残され、結局は旧態依然たる総論あって各論なしという世間的認知を自ら強化してしまうリスクに直面している、なんて見方は霞が関住人の狭い視野の産物なのかな?

#あくまでwebmasterの主観的認識ですが、そういう文脈であるが故でしょうけれども、霞が関においては学界としては行政法学者よりもむしろ商法学者のプレゼンスを感じます。

本日のツッコミ(全15件) [ツッコミを入れる]
dpi (2005-06-14 06:37)

「フランス公法学研究日誌」のdpiです。トラックバックをいただきましてありがとうございました。
ご指摘の内容については私も漠然と感じていたことですので、我が意を得たりと思う反面、外の人からもこんなふうに見えちゃう行政法(学)ってやっぱりホントにやばいのかもしれない、と背筋の寒くなる思いです。「まごまごしている」というのはまったくその通りで、学界全体に危機感のないことが最大の危機かもしれません。
また自分のところで考えをまとめてみますので、ご覧いただければ幸いです。

おおや (2005-06-14 13:17)

最初から金のことなどあきらめてしまえば心の平安が得られるわけですが学界ごと存亡の危機に瀕するまさに両刃の剣。基礎法学の中ではまだましであるという気もしないことはないのであまり文句言っても仕方ないのですが。

鍋象 (2005-06-14 16:52)

「行政法・・・」の件、最近の興味がマクロ経済から、行政職員の行動原理みたいな組織経済学的なところにシフトしつつあり興味深く拝見しました。

日本での行政−民間のコミュニケーションは中小企業団体連合会とか商工会、業界団体などの組織化で対応しているように感じます。この手の組織は結構官庁出身の方が事務局を勤める事が多く、行政での経験がかなり役立つのは確かです。が、協同組合という建前から個別コンサルタントをせずにあまり役に立たないレベルの情報を広く伝える事を目的としているように感じます。税理士、司法書士なども、行政機関での実務経験者が多い職種ですね。

対して、近年では裏技系のコンサルタントに高額なフィーを払うようになっている例を身の回りで聞きます。企業にとって知りたいのはそちらですから。とはいえ、コンサルタントは、情報の非対称性が激しい市場(というか情報の非対象性で商売をしている)ですので、リスクアバーターで一部の人だけ優位な情報を得ることを嫌う日本ではこれまでなかなか受け入れられなかったのかなと想像しています。

なお、天下り関与の談合や、生産調整的な行政指導などは、日本の低インフレ体質維持に役立っていたのではないかと分析しています。最近はモラルハザードという水戸黄門の印籠で、これらのボランタリーな仕組みが排除され、逆サプライサイド改革(日本をインフレ体質に変革する)が進んでいるように感じています。石油化学製品の値上げの本質はここにあるのかなと思います。

少ない文字数では語りつくせませんので、現在ブログ開始を予定しています。が、仕事もそれなりに忙しいのでいつになることやらorz

bewaad (2005-06-15 08:42)

>dpiさん
新エントリ拝見いたしました。発展させていただき、ありがとうございます。

bewaad (2005-06-15 08:48)

>大屋先生
そういう分野の学者を養うのが旧帝大の役割の一つということではないかと思いますが、いかがでしょう?

bewaad (2005-06-15 08:52)

>鍋象さん
天下りは経済学者からは生理的に嫌われてますから(笑)、ぜひともblogで論じていただければ。楽しみに待ってます。

おおや (2005-06-15 22:32)

さすがに7校だけでは血統が絶えてしまうのですが(笑)。
元々大学全体が直接的な実用化可能性から一歩引いたところにいたと思うのですが、LSのようにそれを要求する改革に7校含め巻き込まれている現状において、基礎法学者も自らの直接的な実用性を主張すべきなのか、一歩引いたところに本来の実用性があるというべきなのか、難しいところです。

bewaad (2005-06-16 03:54)

そのあたり、自分が全く知らないので確たることは何も申し上げられないのですが、わが国の司法改革が範としているアメリカはどうなんでしょうかねぇ。それこそ日本以上に「金儲け主義」が徹底しているであろうアメリカのLSシステムと、しかしながら基礎法学においても世界の最先端の一翼を占める研究がなされているわけで。修士と博士のすみわけがうまくできているということなのかな、とは思うのですが・・・。

ヤクザ嫌い (2005-06-17 02:14)

あなたの、この法案との立ち位置を明らかにしてから、お答え下さい。
今機能している制度と、議論中の法案とでは、
「カルトによる人権侵害」の扱いはどう変わるのでしょう。

立ち位置
(1)あなたは、この法案の作成者なのか
(2)法務省がこの法案について答えることを禁じているにもかかわら   ず、ブログ上で延々解説している理由
(3)それを法務省の見解として流用されかねないことを承知の上で、
   あえてやっているのか
(4)法務省にはこの法案について自分が解答していることを、
   報告しているのか
(5)法務省が承知している場合、国民からの問い合わせには
   今は答えられないと回答していることを、
   あなたは聞かされているのか

Apeman (2005-06-27 01:35)

劇場版『Zガンダム』ではギャプランが気に入ったと書いたけど実はアッガイが一番のお気に入りというApemanです。
人権擁護法案に関して賛否はともかくあれこれ発言した人間にとって次なる試金石は「共謀罪」問題だと思うのですが、もしお暇がありかつ差し支えがなければとりあげていただければありがたく存じます。お立場上差し支えがあればさくっと無視していただいてけっこうです。

bewaad (2005-06-27 05:01)

とりあえずよく調べもせずに直感でいえば、conspiracyは判例ではもう認められているので現状と大差ないかと思います。教唆犯でも同じような運用は可能ですし。

Apeman (2005-06-27 09:45)

なるほど。ありがとうございました。

フランクミュラーブラッククロコ (2013-08-29 16:12)

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って、大上段なタイトルつけなくても。別に、「行政法学はカネのなる木か?」でもよかったけど、さすがにそれは、と思って改題。 「行政法学者は金にならんぞ。お前もやめとけやめとけ」 某商法マニアの友人に、半年くらい前に言われたせりふです。当時、私は恩師二人のお..

Propos (2005-06-14 20:59)

で、自治体の現場では学界は影さえ見えず霞ヶ関だけがプレゼンスを誇示する結果となる罠、と。

先日試験勉強の憂さ晴らしに書いた雑文(「カネになる行政法」)に、なんとかの有名なbewaadさんからトラックバックをいただきました(「カネになっていた行政法」)。僕が漠然と感じていた「行政法(学)の危機」が見事に指摘されていますので、ぜひご覧ください。 また、..


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