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2006-01-06

[government]規制緩和を巡る官僚のインセンティブ・再論

先日の「福井秀夫先生、偽装建築問題について何か言ってくださいまし」に対して、馬車馬さんから次のコメントをいただきました

お役人のインセンティブも考えよう、というのは非常に私好みの考え方で、大いに賛成なのですが、Bewaadさんのポジションとは整合しないのではないでしょうか。

整合性の話は後に回して、脇道の話から入らせてください。この審議会で委員がお役人を攻撃したことをムチと表現されていますが、これはお役人のインセンティブを誘導するためのアメ&ムチの話と混同してはいけないと思います。お役人のインセンティブが問題になるのは、例えば検査の仕組みが確立された後、収賄で検査を台無しになってしまうような場合で、これをアメとムチでどう防止するかがポイントになります。しかし、この審議会?はその仕組みそれ自体を議論する、social planningの段階です。この段階でインセンティブの問題が発生すると、Social Planningを適切に行うためのSocial Planningが必要になり、そのための・・・と以下永遠に続いてしまいます。

ですから、『考え方としてはありだと思いますよ、勿論』であるなら、それを強く主張すること自体は全く問題ないと思います。この段階でお役人のインセンティブ問題が発生するなら、そんなお役人にはsocial plannerの資格はありません。また、その後発言責任を取るかどうかは必ずしも本質的な問題ではないでしょう。ただし、もっと政治的な(非論理的な)次元では、声高に主張するデメリットはありそうですが。

で、整合性の話ですが、例えば「なんたらボートの検査が誠実に実行されるかどうか」を考える際にお役人のインセンティブも考慮に入れねばならないなら、そもそもお役人に検査を任せる必要はなくなります。同等のインセンティブメカニズムを民間に適用すればいいわけですから。更に考えますと、この課長氏はある種の外部性の話をしているように見えますが、私のエントリーでも書いたとおりこれは外部性を考慮しなくて良いケースだと思います。整備不良で一番痛い目に会うのはオーナーですから(乗り合わせた子供に自己責任を求めるか、というのは完全にずれた議論です。斜め読みですが、この課長さんの議論にはあまり説得力を感じません。委員の主張もおかしいと思いますが)。

このとき、オーナーに整備のインセンティブを与えるのと、強制検査するお役人にインセンティブを与えるのとどちらが簡単でしょうか?おそらく前者です。オーナーへのもっとも厳しいムチは「事故死」or「社会的死」ですが、検査を怠ったからと言って役人が殺されることはありません。社会的死亡の度合いも小さいでしょう。お役人へのムチの厳しさには上限があるので、インセンティブを付与しづらいのです。アメを併用する手もありますが、余計なコストがかかります。

ですから、官僚のインセンティブ問題はほぼ全てのケースで規制緩和へのサポートとなるのではないかと思います。もちろん、ハードルを高めた上で「それでもなお規制が有効だ」という主張であれば、より説得的ではありますが。

こういう話は、「本来自分のためであるはずの整備が行われないのはなぜか」という所から議論していかないと、話が際限なく滑っていくような気がします(私にはそのへんが分からないので、このボートの件の規制緩和については特に意見がありません)。

軽々にwebmasterの意見を述べるにはばかりがあったので、改めてこうしてエントリを起こして書かせていただきます。

まず馬車馬さんが脇道とおっしゃっている部分ですが、webmasterは前回のエントリにおいてそれを本筋として書きました。馬車馬さんが脇道とされる理由は「この段階でインセンティブの問題が発生すると、Social Planningを適切に行うためのSocial Planningが必要になり、そのための・・・と以下永遠に続いてしまいます」と理解していますが、しかし実際にインセンティブの問題が発生しているのですから目を背けても仕方がないのでは、というのがwebmasterの問題意識です。「この段階でお役人のインセンティブ問題が発生するなら、そんなお役人にはsocial plannerの資格はありません」と言われましても・・・。

#例えばディキシット「経済政策の政治経済学」のように、「この段階でのインセンティブ問題」を検討する価値はあると思うのですが。

というわけで以下は無資格者の繰言になるのですが、前回のエントリの内容を違う形でまとめてみます。規制緩和をしないことについての批判をCnotd、規制緩和が成功する確率(の期待値)をp(0≦p≦1)、失敗する確率を1-p、規制緩和が成功した場合の賞賛をA、失敗した場合の批判をCdとすると、官僚が規制緩和しようと思うためには次の条件が満たされる必要があります(とりあえず官僚の効用関数はこれらのみを内容として持つものと仮定します。また、CnotdとCdは負の数を持つとします)。

Cnotd < A x p + Cd x (1-p)

左辺が現状で、規制緩和をせずに現状を維持した場合に受けなければならない批判です。これに対して右辺は規制緩和をした場合に見込まれる効用の期待値で、規制緩和が成功した場合に受ける賞賛と規制緩和が失敗した場合に受ける批判の加重平均値となります。この条件が現に満たされていない場合にどのようにすれば満たされるようになるかを考えれば、

  1. Cnotdの絶対値を大きくする(=規制緩和しないことに対するより厳しい批判)
  2. Aの絶対値を大きくする(=規制緩和が成功した場合におけるより大きな賞賛)
  3. Cdの絶対値を小さくする(=規制緩和が失敗した場合におけるより穏やかな批判)
  4. pを大きくする(=規制緩和がより成功しそうだとの確たる見込み)

のいずれかによることとなります。

実際のところ、社会問題化しなければCnotdやCdはそれほど大きなものではありません。ところが1-pの確率で規制緩和が失敗だったとされる場合を想定すれば、社会問題が起きたためにそう判断されるというのがもっぱらですから、基本的にCnotdよりもCdが大きいと見込む官僚が多いでしょう。またAについては、前回書いたように霞が関に対して向けられることはほとんど期待できず、すなわち限りなくゼロに近いと官僚は諦めているわけです。

webmasterの見立てでは着実に規制緩和は進んでいて、さらに昨今の構造改革礼賛の風潮でCnotdの絶対値は大きくなっているので、傾向としてはさらに進むことでしょう。福井先生をはじめとする規制緩和派は、もっぱら1の手法を好んでいるのだと思いますが、この傾向をさらに加速させたいというなら2や3も考えたほうがよいのではというのが前回の趣旨で、改めて整理すれば4もあるなぁと思うわけです。

なお、馬車馬さんのご指摘の後半ですが、行政府は制度を額面どおり執行するインセンティブがビルトインされているのが原則ですから、あまりインセンティブ分析が有効な場面は少ないのではないかとwebmasterは思います。むしろ真正面から外部性や情報の非対称性の有無、判断材料や判断能力の限界による政府の失敗の可能性などを考察すべきではないでしょうか。

本日のツッコミ(全7件) [ツッコミを入れる]
sakura (2006-01-06 04:27)

細かい突っ込みですが、規制緩和するかしないかはリスクプレミアムを考えなきゃいけないので、官僚がリスク回避的であるとするならば、
Cnotd + α < A x p + Cd x (1-p) 、α:リスクプレミアム
と満たさないといけない訳です。
Aが正、Cdが負であるので、2の方法ではリスクプレミアムが増大、3の方法では減少します。
褒めるよりも叩くのを控えた方がより効率的に規制緩和が進むって事ですねえ…
もちろん、官僚がリスク選好的なら逆の結果になりますが。

koge (2006-01-06 09:24)

むしろ構造改革派=(官民を問わず)リスクテイカー、抵抗勢力=リスク回避(民の場合リスクの政府への押し付け)と考えたほうがわかりやすいのでは?
で、現在は国民のリスク選好度が上がっている(あるいは財界等がそのように仕向けている)のでこうなっている、特に役所内部でリスク選好的な人が耐えられなくなって改革改革と騒いでいる、と。
公務員試験にも(できれば省庁毎に)SPI的なものを導入して、官庁訪問・面接以外でもその省庁と価値観が合うかどうかをもっと見たほうがいいかもしれませんね…って、民間でもミスマッチは広がり続けてるんだから無理か。

馬車馬 (2006-01-06 09:26)

ご丁寧にリプライを頂きましてありがとうございます。それからコメントが長すぎてごめんなさい。Bewaadさんの力点は(私のコメントの)後半部にあると信じていたのであのように書いたのですが、こうして見ると後ろ半分が完全に蛇足でした。

さて、「現実に問題が存在しているのだから考えるべき」というBewaadさんのスタンスはなるほどもっともです。その上で2点ほどコメントを。

まず、このモデルだと例の委員さんの行動を肯定することは出来ても否定することは出来ないというのはまずい気がします。

それから、より深刻な問題は、お役人が利己的に行動するのに、審議委員は利他的に行動すると仮定されている点です。Cnotdは(そして恐らくはAとCdも)審議委員が決定できる変数と仮定されていると思いますが、ここで委員は国民の為だけにAを増やしたりCnotdを減らしたりせねばなりません。これはお役人が審議委員にsocial plannerとしての役割を押し付けたということです。つまり、このモデルは「我々だって利己的な人間なんだから、君たちが代わりに利他的に行動してくれよ」という主張と同義です。これはちょっと虫が良い話ではないかと。また、お役人が利己的で委員は利他的という仮定は実感と違っているような気もします。

むしろですね、委員も利己的だと仮定して、(お役人を叩くことで得られるマスコミからの受け) + p x (規制緩和が成功したときの名声)とか効用関数を置きます。で、お役人の効用関数も「余り叩かれるとやる気を失ってpが低下する」みたいなメカニズムを入れて、ここから両者が協力して規制緩和に向かうような状況(ナッシュ均衡というやつですね)が生まれるかどうか考えた方が面白いかもしれません(単なる思いつきですが)。うまくいけば「叩き過ぎない方がいい」みたいな結論も出るかもしれません。

こうすることでsocial planningの屋上屋上屋…の問題は回避されます。ただし、このゲームで両者が協力するようなルールを設定することは当然出来ないので(social plannerがいませんから)、多くのケースで協力関係は成立しないと思いますが。

それと、最終段落については全く同感です。私のコメントの最後とも一致しますね。もし審議会?でそういう議論がまるでないのであれば問題だと思います。

ゆうくん (2006-01-06 15:13)

初めまして。それと、明けましておめでとうございます。
つまらないことなんですが、少し気になったのでお聞きしたいことが‥このモデルで、規制緩和をしないことについての賞賛、Anotのようなものはあるのでしょうか?

bewaad (2006-01-07 02:40)

>sakuraさん、kogeさん
手を抜いたところにきっちりツッコんでいただける読者にご覧いただいて幸せです。今後ともどんどんお願いします。

さてリスク受容度ですが、半径5mの話としては官僚だからといってそれほどリスクアヴァーターというわけではないのかな、と。大竹先生が「日本の不平等」で使っていた降水確率と傘携帯でもそれほどきちんとしているようには見えませんし、ギャンブル好きも少なからずいますし(笑)。

もしリスクアヴァーターに見えるとしたら、本件についてはAの期待値が著しく小さいということかと思うのですが、いかがでしょう?

bewaad (2006-01-07 02:49)

>馬車馬さん
こちらこそ考えを深める機会を与えていただきありがとうございます。

ご指摘の1点目については、改善の余地があるだろうといいますか、彼から見て現状がダメだというのはやり方に足らざるところがあるのではということで、批判することそのものがいかんということではないです。実感を申し上げるなら、あの場でいくらひどいことを言われても織り込み済みだから有効でないだろうというのはありますが(笑)。

2点目については、彼が本当に主張を実現したいならという趣旨ですから、彼自身は一人称というか、そういった切り口でのエントリでした。ご指摘のように反霞が関側もモデル化すれば客観的な分析装置として面白いものができそうだと思いますが、手に余るので誰かやってくれないですかねぇ(笑)。

bewaad (2006-01-07 02:56)

>ゆうくんさん
こちらこそよろしくお願いいたします。

ご指摘の点ですが、可能性としてはあり得ると思いますし、一昔前ならそういった業界の代弁的な部分は実際にある程度あったと思います。

他方で現在では、そうしたものはあまり見かけないように思います。あえていえばCnotdの期待値について、その実現を防止できたという機会費用的な存在なのかなと思いますが、このあたりは省庁によって差があるかもしれません。


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