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2006-07-11

[economy][government][book]新藤宗幸「財政投融資」

かつて決めつけがあるのではと疑問を呈した本書ですが、paco_qさんが一定の評価をされているのを見て、出来がよいのであれば認識を改めるべきですし、そうでなければきちんと問題点を指摘すべきだろうと読んでみました。前回も書いたような言葉遣い(「腐蝕」が何回出てくるかカウントしておけばよかったと思いました(笑))はさておくとしても、そもそもの問題設定に疑問を呈せざるを得ない、というのが一番の感想です。

「腐蝕」とは、結局は累積した政府債務のことを指しているのですが、それと財政投融資との関係は、著者は次のように描きます。

  1. 財政投融資はシステムが複雑で監視の目が行き届きにくい。
  2. そのため、不要不急な事業が財政投融資を活用して多く行われた。
  3. また、郵貯・公的年金の存在による巨額の余剰資金が存在した。
  4. そのため、それら資金を用いて用意に国債が消化された。
  5. 以上が、厖大な累積政府債務が積み上がった一因である。

政府債務残高が非常に大きなものとなった理由についてはかつて詳細に論じましたが、人口構造と高度経済成長が重なった結果生じた莫大な民間(家計)部門の貯蓄は次のいずれかにより消化される必要がありますが、それぞれに記した「副作用」の中では政府部門の投資=政府債務の積み上がりが一番許容できたから、というものです。

  • 民間(企業)部門の投資
    (副作用)政府が投資を増やせなどと企業に命令するのであれば、まさしく社会主義経済になってしまいます。金融政策を実際に採用されたものよりも総じて緩和気味に運営し(7/12追記)金利を下げて投資を増やす(この場合、消費も増えます(=貯蓄が減ります))というやり方もありますが、そうなればよりインフレ率は高くなっていたでしょう。(不適切な記述ですので削除いたします。詳しくは、コメント欄の銅鑼衣紋さんのご指摘をご覧ください。(7/13追記))
  • 政府部門の投資
    (副作用)恒常的に財政赤字が生じ、政府債務が積み上がります。
  • 海外部門の投資
    (副作用)貯蓄超過を減少させる効果がある投資は、経常黒字を伴う必要がありますので、貿易摩擦が悪化します。
  • 貯蓄余力の低下=所得の減少
    (副作用)貧乏はいやですよねぇ?

というわけですので、財政投融資があったから今の政府債務の現状があるとの著者の指摘は的外れです。言い換えれば、財政投融資がなかったとしても、政府債務は現状のようになっていたということです。

このように財政投融資の責任ならざるものを財政投融資の責任とし、その存在を罪悪視しているがゆえでしょうか、著者の示す改革案なるものは片手落ち、つまり代替案の欠点に目をつぶり、方や現行制度は欠点しか見ないというパターンが多いといわざるを得ません。いくつか例を挙げてみましょう。

(旧)日本育英会の奨学金は実態は相手の生活条件を精査しない税収による補助金支出にほかならないので、国公立学校については授業料の免責が当然考えられ、私立学校にも学校である以上そのような指導を行うことができたはずであり、他にも所得補足の公平性を確保した上で、所得税制に学資分を見込んだ高水準の所得控除や税額控除をもうけることも選択肢としてありうる(p194)
「相手の生活条件を精査しない」ことが問題であるなら、授業料免除に方法を変えたところで同じことです。そこが改善されるのであれば、「補助金支出」の額を一定とするなら、無利子・低利子融資(=現行の奨学金)によるか授業料免除によるかは広く浅くか狭く深くかの選択の問題であり、どちらかが一概に悪いという話にはなりません。税額控除については、貧困者がそもそもどれだけ税金を払っていて、控除が新たに設けられた場合にどの程度の支援効果があるか、ご存知ですか?
中小企業対策について、個別事業者の「運転資金の貸付けは、基本的に民間金融機関にゆだねればよいことであり、民間金融機関による「貸し渋り」「貸し剥し」が生じるならば政府には巨額の公金を金融機関へ投入した以上、それにふさわしいモラル・コードとその順守を金融機関にもとめる責任がある(pp196,197)
政府系金融機関の業務を縮小する代わりに、民間金融機関の行動を規制をもって直接操作しようというのがどちらが民間の経済活動への悪影響が大きいとお考えでしょうか? ところで、公的資金を受け入れたからという理由で、融資戦略等において政府介入を受ける金融機関というのは、民間金融機関というより政府系金融機関と呼んだ方がいいのではないでしょうか(笑)。
公共事業の規模をみると、SNAベースでいう一般政府部門における公共投資のGDPにしめる比率は約四パーセントであり、主要先進国のなかで飛びぬけてたかい。それは一般会計による公共事業支出にくわえて、事業系特別会計や特殊法人が濫設されてきた結果であるが、中央政府主導の税と財政投融資による国家的規模での社会資本整備は、すでに役割を終えたというべきであるので、自治体が公共事業補助金の一般財源化をうけて、地域の状況に応じた公共事業を実施していくべき(pp200,201)
公共投資を減らすべきかどうかは、基本はストック量によって決めるべきでしょう。ストックが少ないのであればその充実を図るべきですし、ストックが多いのであればもう不要であると。どの程度のストック量が適切かは民主的政治プロセスにおいて決定されるべきでしょうが、少なくとも国際比較を持ち出すなら、フローで多いから日本は問題だというのは片手落ちです。で、ストックの国際比較ですが、抵抗勢力(笑)である日建連の資料ではありますが、多くの面で先進国中では飛びぬけて低いとの指摘があります。この資料を妄信する気はwebmasterにはありませんが、逆に言えばこの点についての反論が著者に限らず公共投資削減を主張する者から寡聞にして見られないのはどういうことなのでしょうか? ストックの比較に思いが及ばないのであれば浅慮と批判されても仕方がないでしょうし、思いが及んでもいい材料がないのでフローに議論を誘導しているなら不誠実と批判されても仕方がないでしょう。

その他、個別の指摘に見るべきものがないとまではwebmasterも評する気はありませんが、バイアスがかった分析・扇情的表現があまりにも多く、ジャーナリストのものであればさておき学術書としては欠点の多い書ではないでしょうか。行政学叢書シリーズの評価を落としかねないような。

[misc]branchさんが旅に出る理由

人気のない秋の渚 僕らだけにひらける空 「元気でいてね」とギュッと抱きしめて 空港へ先を急ぐ・・・の?

本日のツッコミ(全24件) [ツッコミを入れる]
銅鑼衣紋 (2006-07-11 09:01)

理由(1)民間(企業)部門の投資を増やすと、よりインフレ率は
高くなっていた

は、マズイです。貯蓄投資バランスをとる=総需要総供給のバラン
スをとるですから、財政でも民間投資でも短期的には同じですし、
供給能力の拡張なら普通は民間投資の方が高いはずですから、その
方がインフレ抑制的ですらあります。

もちろん、実際には日本の供給サイドのボトルネックが公共資本の
不足にあった可能性は十分あるので、その場合なら財政で民間貯蓄
を吸収することはインフレ抑制的といえるでしょう。

一方、供給能力が上がることで労働需要が増えて、ここがボトル
ネックになって賃上げインフレという経路が作用する可能性はあり
ますが。

で「身も蓋もない」結論は、実はそもそもインフレはマネーの問題
なので貯蓄を財政で吸収するか民間投資で吸収するかの問題では
ないということに帰着します。

ダニアン (2006-07-11 12:22)

1.財政投融資はシステムが複雑で監視の目が行き届きにくい。
2.そのため、不要不急な事業が財政投融資を活用して多く行われた。

これだけで、財政投融資が問題だといえると思います。
3−5のマクロ経済まで手を広げる必要はないのでしょう。
構造改革もので共通しているのは、マクロ経済にはあまり関係ないということでしょう。

本石町日記 (2006-07-11 20:40)

新国際局長と複雑性が一体どう結びつくのかと思いきや、論戦した経緯があったのですね。知りませんでした。ところで肝心の論文がリンク切れ?のようで読めないのですが、日銀の政策運営ロジックもランダムウォークしており、付いていくのが大変です(笑)。

cloudy (2006-07-12 04:02)

>本石町さん
これでしょうか。

野口旭:経済政策をめぐる『専門知』と『世間知』
http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2002/02-4-17.html
出沢敏雄:『世間知』と金融政策
http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2002/02-5-8.html
野口旭:金融政策における『専門知』とは何か
http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2002/02-5-15.html
出沢敏雄:「専門知」への期待
http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/2002/02-6-5.html

あと、黒木さんの以下の発言もあわせてどうぞ。
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/keijiban/b0046.html#b20020521050758

bewaad (2006-07-12 05:31)

>銅鑼さま
インフレというのは、後段、つまり「金利を下げて投資を増やす」場合=傾向として総じて金融政策が緩和気味だった場合、という趣旨で書いたつもりなのですが、紛らわしかったようで恐縮です。

bewaad (2006-07-12 05:33)

>ダニアンさん
本日(7/12)のエントリで論じてみました。再度ご意見をいただければ幸いです。

bewaad (2006-07-12 05:34)

>本石町日記さん、cloudyさん
私も野口先生のページのリンクがnot foundだったのであきらめてました。ご教示ありがとうございます>cloudyさん。

銅鑼衣紋 (2006-07-12 10:00)

>bewaad氏

財政支出で景気拡大というケインズ的状況を考えると、インフレは
(期待で修正しようがしまいが)フィリップス曲線で決まり、それ
は失業率つまりオーカン法則でGDPによって決まるわけですから
要するに民間投資が増えても公共投資が増えても同じだということ
になっちゃうわけです。もちろん裏側には、かならずしも常にでは
ないですが、受動的金融政策が仮定されていることが多いので、ど
ちらにしても貨幣量の増加という意味での金融緩和は結果的に起き
てはいますが。

正しいかどうかは別にして、総需要総供給フレームワークで考える
なら、IとGでインフレに与える効果が違うという話はあまり強調
しないほうが吉ではありますぞ。

特殊法人 (2006-07-12 12:42)

ああ・・。また恥ずかしい記録が引っ張り出されてきましたね。
「専門知」。しょうがないんですがw。

ken (2006-07-12 15:33)

この記事は
http://www.youtube.com/watch?v=yW4asYcx4bQ&search=kenji%20ozawa
を聞きながらお読みください。

branch (2006-07-12 16:55)

実態に即して表現するならば、『人気のある調査事業 僕らだけに下される予算 「しっかりやれよ」とギロッと睨まれて 執行へ先を急ぐのさ』といったところだったりします…。(詳細はご勘弁ください。)

本石町日記 (2006-07-12 18:01)

cloudyさん、助かりました。参考にさせてもらいます。

徳保隆夫 (2006-07-12 18:38)

昨年9月3日の記事では、

『もっと多額の対外債権を保有する、すなわちもっと多額の純輸出を行うことが可能であれば政府が借金(=政府への運用)する必要もなかったわけですが、80年代から90年代にかけての貿易摩擦問題を考えれば、それは事実上不可能だったでしょう。』

とあるわけですが、これは榊原さんが「構造デフレの世紀」などの著書で「円安は不可能(だからリフレ政策は実行できない)」としてクルーグマンの提案を切り捨てたのと似た主張かと思います。債務の積み上がりを批判する人が「だから海外投資を進めるべきだった」といっているわけではないのですが、「これは二択問題で、どちらの道もありえた」とはいえないのでしょうか。

素人には、あの状況下で海外投資をどんどん推進することの政治的な困難さは、例えば日銀がリフレ政策として大規模に長期国債を買っていくことの政治的困難さと大差ないように思われます。あっさり前者を不可能だったと切り捨ててしまうなら、本格的なリフレ政策だって端から可能性がない(なかった)ことになりませんか。

徳保隆夫 (2006-07-12 18:56)

与謝野さんの「悪魔的」発言に(報道では)あまり異論も出ないところをみると、今後、どんどん GDP を伸ばしていこうという発想があまり日本人にないようで、国民にもリーダーにもその気がなくて経済成長するものだろうか、という感じはします。こうした状況が現実問題としてずっと続くとするならば、社会資本の不足と貿易摩擦の悪化を甘受してでも(これほど)政府財務残高を積み上げない方がよかったし、少なくとも今後はそのように努力すべきだ、といった主張にも意味があるのかな、と。(でも、それでは困りますよね?)

……どの道を選んでも政治的困難さはあって、(結果的に?)政府は経済学的によさげな道を選んだ、といった筋立ての方がいいのかな、と思うのです。いや、今日の記事ではそう読めるのですが、昨年の記事では違うニュアンスなので、少し疑問を感じた次第です。

(2006-07-12 22:16)

よさの発言に異論が出ないのは大きく報道されず、多くの国民・マスコミもインフレと成長率の関係をわかってないだけなのでは?
国民はインフレ(による実質賃金低下・実質利子低下)がいやなだけであって成長率が高まる(収入が増える)ことに異論はないでしょう。異論があれば、改革なくして成長無しという方針が支持されることもなく、非正規雇用の増加などの貧困化を指して格差拡大と問題視されるようなこともないはずです。
それに中川政調会長をはじめとしてもっと高い成長を目指すべきだという政治家だってたくさんいるわけで、国民にもリーダーにも成長する気がないって事はないでしょう。

bewaad (2006-07-13 04:07)

>銅鑼さま
よくわかりました。わざわざ丁寧な解説ありがとうございました。

bewaad (2006-07-13 04:10)

>特殊法人さん
実は私も、いちごで言及されるまではまったく思い出しませんでした(笑)。

bewaad (2006-07-13 04:13)

>kenさん
あまりYouTubeは見ていないのですが、そんなものまでうpされているんですねぇ。

bewaad (2006-07-13 04:20)

>branchさん
シャレになってないっす(笑)。他にも、例えば次のように、いろいろなヴァージョンが考えられそうです。
『注文の多い法律案 僕らだけで詰める宿題 「呼び込みです」と声をかけられて 四号館へ先を急ぐのさ』

bewaad (2006-07-13 04:23)

>本石町日記さん
本日(7/13)のエントリでネタを使わせていただきました。

bewaad (2006-07-13 04:31)

>徳保隆夫さん
主観的には変わっていないつもりではありますが、無意識のうちに変わっているのかな?

それはさておき、榊原さんとの違いを述べるなら、70年代以降、とりわけ85年(プラザ合意の年)から90年代にかけては、経常収支黒字を拡大する方向の政策は採りがたかったと思いますが、2000年代に入って傾向が変わってきているように思います(現に、日銀が産出する実効為替レイトは、昨今はプラザ合意以降最安値を記録しています)。理由としては、
(1) アメリカの貿易赤字にもっとも寄与する国が日本から中国に変わった、
(2) 日本経済が低迷したままではアメリカも困る、
(3) 経済政策を相対的に軽視するブッシュ政権の指向、
といったものがあると思います。

bewaad (2006-07-13 04:37)

>〇さん
定量的に示すことはできないのですが、昨今の風潮としては、高めの成長率を口にするのは無責任な楽観論者か、そうでなければ「痛み」から逃れるためにあり得ない前提を持ち出す抵抗勢力と見る向きが多数派なのではないでしょうか。

逆に、与謝野発言に代表されるような成長率見込みの方が、良心的で責任感のある態度と評価されているように思います。

個人的には、高い成長率=バブル=そのときに楽をしてもあとでつけが回ってくる一時的な享楽主義、といった「教訓」が広く信じられているのではないか、逆に言えば低い成長率を臥薪嘗胆することがあるべき姿勢だという認識を多くの人が持っているのではないか、という気がします。

BUNTEN (2006-07-13 06:21)

>「痛み」から逃れるためにあり得ない前提を持ち出す抵抗勢力

事実私は「「痛み」から逃れ」るために「抵抗勢力」をやっているわけですが。orz

bewaad (2006-07-14 04:01)

>BUNTENさん
それがあたかもサボったツケだといわんばかりのラベリングがはびこってますからねぇ・・・。

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財政投融資 作者: 新藤宗幸 出版社/メーカー: 東京大学出版会 発売日: 2006/05 メディア: 単行本 財政投融資問題の歴史と現状について知る上で必須の一冊です。 東京大学出版会から出される全12巻の『行政学叢書』の1冊,サイズはそれほど大きくはなく(A5版で200頁超),そ


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