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2006-10-02

[economy][BOJ]日銀のデフレターゲットは世界標準?

plateauxさんによるとあるパネルディスカッションのご紹介が、なかなかに面白いです。

Paul Volcker (元FRB議長)に、歴代のNY連銀総裁のGerald Corrigan (現ゴールドマン)、William McDonough (現メリル - たぶん)、Anthony SolomonにTim Geithner (現職)という豪華メンバーを揃えて先週行われた、パネル・ディスカッションの内容がちょっと話題になっています。内容はBloombergKing Reportなどで少し触れられていますが、基本的にはインフレ警戒色の強いものであったようです。

Corrigan
「瓶から昔のインフレの魔物がとび出る可能性が少しある。一旦やつが飛び出ると、再び閉じ込めるのは極めて難しい」(おなじみのたとえですが)「米国市民の福利という面に限って言えば、長期的に極めて深刻な問題となる可能性がある」

Volcker
「インフレが少しずつ這い上がってきているのに少し懸念を強めている。・・・・ウォール街の多くの人々は引き締めと言う面では大したことは何も起こらないという前提で動いている。しかし、いったん人々がそれを確信すれば、インフレはますます上昇し、それに対して手を打つのも難しくなる」
「我々は奇妙な世界に生きている。そこでは、3%のインフレは安定を意味し、0.5%の物価下落はデフレになるらしい。新しい言葉には全くついていけない・・・」(笑)

「ポール・ボルカーの「奇妙な世界」」(@Economics, Technology & Media10/1付)

とりわけヴォルカーの最後のコメントは、おそらくは日銀の現在のスタンスにも共通するのではないでしょうか。竹森俊平「世界デフレは三度来る」でも紹介されたグリーンスパンvsイェレン論争の結果、FRBが目指すべきインフレ率の目途として示された2%に上下1%ポイントの幅を持たせた1%〜3%のインフレターゲットを念頭に置けば、その下限を下回る0.5%はデフレに準ずるものとして積極的な金融緩和が求められますし、他方で3%はギリギリ許容の範囲内ということになるわけですが、ヴォルカーにとってはこのターゲットには極めて違和感があるということが察せられます。適正範囲として0%〜2%を念頭に置いているのであるなら、まさしく今の日銀と同じ姿勢です。

#ヴォルカーは0.5%の下落、といっているので、ここでは正負を取り違えています。失礼致しました。よって、日銀と同じというより、日銀よりもなお悪いということでしょう。0.5%であってもデフレは許容すべきでない、との知見は彼の念頭になく、あくまでインフレとデフレは対称性をもって警戒すべき、ということなのでしょうけれど、日銀ですらそこまでは言っていません。言いたいのかもしれませんが(笑)。(10/4追記)

改めて2%というインフレ率の含意を紹介するなら、

  1. デフレになってしまうと、金融政策の効果は極めて限定されたものになってしまうので、そうならないだけの「糊代」の確保、すなわち、
    1. 何らかの外部ショックがあってもデフレにならないだけの「インフレ率の糊代」の確保が必要であり、かつ、
    2. そうした事態が生じた際の金融政策対応を可能とするだけの「金利の糊代」の確保が必要。
  2. 他方で、物価変動の資源配分に対する影響を考えるなら、
    1. デフレになってしまうと、価格の下方硬直性のある財(金利や賃金)の資源配分に多大なる非効率が生じる一方で、
    2. インフレ率が数%にとどまるマイルドインフレ下においては、資源配分の非効率性はほとんど生じない。

ということになります。

このような見方がFRBにおいても形成されるにいたったのは日本のデフレがあったから、つまりは1990年代後半以降ということになりますが、グリーンスパンの前任であるヴォルカーは、当然ながらその際にはFRBを離れています。他方で彼が活躍したのは1970年代のアメリカ経済の高インフレ体質の是正局面においてであって、インフレに対して警戒心が強いのも無理はありません。

外部から見るのであれば、結局のところはアメリカはデフレにはならなかったわけで、デフレになってしまったなら大変という懸念は共有できたとしても、そのための予防をどういった状況において、どの程度行うかについては、上記のような2%インフレ目標的な行動ではないという意見もあり得ます。ヴォルカーの上記のような事情を考えれば、現在のFRBのスタンスはややゆるすぎだ、という判断に彼はいたっているのでしょう。

もしデフレに対する警戒心が、このような世代の経験の差に由来する部分も大きいのであれば、日銀ももうしばらくしたらFRBのような路線転換があり得るのかもしれません。ただし、ヴォルカーを乗り越えるにはグリーンスパンという巨大な存在が必要だったでしょうから、単に時間が経過すればよいというものでもないでしょう。そのような「革命家」が登場するならば、思いのほか簡単に崩れ去るのかもしれない、と理解すべきなのだとwebmasterは思います。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
L (2006-10-03 12:43)

Volckerは、"we live in this peculiar world where 3 percent inflation is stability but a half percent decline in the price index is deflation. "と言っているので、「下限を下回る0.5%はデフレに準ずる」という趣旨ではないように思います。<declineですし

って3%上昇を気にしないのに0.5%下落を大騒ぎするのが奇妙だと言っているんだとしたらもっと悪いですが。

bewaad (2006-10-04 07:03)

>Lさん
日本語訳でも「下落」ってついてました。先入観ゆえの早とちりが最近多いようで、お恥ずかしい限りです。ご指摘ありがとうございました。

で、まさに先入観とはそんなひどい話であるはずがないということで、まさしく「もっと悪い」ことではないかと。私ごときがいうのも恥知らずではありますが、麒麟も老ゆれば駑馬にしかず、なんでしょうかねぇ。


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