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(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)

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2007-01-12

[history][book]田村洋三「沖縄の島守」

サブタイトルに「内務官僚かく戦えり」とあるように、沖縄戦当時の島田叡県知事と荒井退造警察部長の動きを追ったノンフィクションです。二人ともその献身的な働きで、内地出身であるにもかかわらず沖縄県民の敬慕を集めたとされる人物ですから、本書で描かれるその働きぶりは、素晴らしいとしか申し上げようもありません。また、戦史や県民伝承が中心となって語られる沖縄戦について、現地を丹念に当たり当事者を訪ね、語られない歴史を再構成する著者の努力もまた、頭が下がる思いです。

本書の味わい方としては、著者の二人への思いに浸りながら、その高い評価を素直に受け入れるというものであるべきでしょう。著者もそうですし、また著者の取材に答えて当時を証言する生存者もそうですが、知られざる二人の働きを後世に留めたいという気持ちがひしひしと伝わってきますし、それを過去を美化しているのでは、なんて腐すのは失礼だとwebmasterは思うのです。とりわけ生存者にとっては、それはまごうかたなき真実なのですから。

他方、それを事実だと信じ込めばよいというわけでもありません。例えば、pp133-135においては、水際作戦から持久作戦への転換が沖縄県民の悲劇を招いたとされていますが、サイパン島の惨劇を見れば、水際作戦だったら住民が安全であるわけでもありません。戦場に民間人がいれば、多かれ少なかれそうした事態は不可避です。

したがって、多くの沖縄県民を塗炭の苦しみに突き落とした最大の原因は、疎開が十分に行われなかったこととなるわけですが、真実と事実の違いとも関連して重要なのは島田知事の前任である泉守紀‐本書では、名が伏せられI知事となっています‐の評価でしょう。彼が軍と対立し、軍がサイパンの惨劇を繰り返さないために計画した疎開の実施にも齟齬をきたしたことが、疎開の不十分さの原因であると一般には思われ、当然ながら本書もその立場から厳しく批判しています。繰り返しとなりますが、それが当事者にとっての真実であるのは否定できません。

最終的には敵前逃亡と言われても仕方がない形で沖縄を離れたこともあり、彼を弁護する声を探すことは困難です‐本書(p215)によれば、反戦の態度を評価する向きもあるようですが。しかしながら、一方の当事者の真実を事実として認識してしまってよいのか、悪評紛々であるだけにwebmasterは気にかかります。

まして、二人のような生き方は文字通り有難い‐存在をめったに期待できない‐からこそ貴重なわけで、人間として普通なのは泉知事なのは間違いありません。彼への悪評とは、自らのうちに潜む醜さをその存在が突きつけざるを得ないからこそ、違うと言い聞かせたいことの裏返しでもあるかもしれません。野里洋「汚名―第二十六代沖縄県知事 泉守紀」を読みたいな、という気分にさせるのもまた、本書であるということです。

#公平を期すために申し上げるなら、本書巻末の参考文献リストには野里本も掲載されており、著者はそれを読みもせず彼を批判しているわけではありません。

蛇足ながら。

3月に入り空襲が始まると、県庁を首里に移転し、地下壕の中で執務を始めた。以後沖縄戦戦局の推移に伴い、壕を移転させながら指揮を執っていた。軍部とは密接な連携を保ちながらも、およそ横柄なところのない人物で女子職員が洗顔を勧めると「お前が命懸けで汲んできた水で顔が洗えるかい」といい、他の職員と同様、米の研ぎ汁に手拭いを浸して顔を拭っていた。

島田叡‐Wikipedia(webmaster注:強調は原文によります)

本書のp310に依拠した記述と察しますが、当該部分を読む限り、このエピソードは荒井警察部長のものであって島田知事のものではありません。島田知事も似通ったエピソードを残していますが、あくまで別の話です。念のため。

「(略)例えば朝の洗面に使う水です。敵の空襲や艦砲は朝、夕の六時から一時間だけ、彼らの食事時間だったのか、ピタリと止みました。壕で使う水は、その時を狙って若い警官や女子職員が繁多川の井戸や安里川へ汲みに走りましたが、知事さんはほんの少ししか使われない。『命がけの水汲みの苦労を思えば、あだやおろそかには使えないよ』とおっしゃって。(略)」

p309

「(略)私も毎日、水汲みに行き、部長さんに洗面をお勧めしましたが『お前が命がけで汲んできた水で顔が洗えるかい』とおっしゃって、皆と同様、お米のとぎ汁に手ぬぐいをひたし、ぬぐっていらっしゃいました」

p310

[government]医療行政も崩壊?

今現在でも医者を続けた方が高給というような待遇の悪い医系技官の職務に、給与の安さを補うだけの魅力を付加できるかどうかが課題なんでしょうけれど。
※聞くところによると、結構辞めているそーで。>医系技官

WHYな日々〜アル公務員の日常〜(1/9付)

医療崩壊の前に、医療行政の方がどうにかなってしまうのでは、という気がします。医者側からは厚生労働省の技官に対してあれこれ言いたいこともあるでしょうけれど、多分あれでも(霞が関の中では)医者側の事情をもっとも理解する者ではあるわけで、それが手薄になるというのならば、より行政側の事情(財政事情とか)が押し付けられてしまうおそれが高くなるのではないでしょうか。

ブラックに言うなら、だからこそ医者側の待遇を悪くして相対的な技官の待遇改善を図っていたりして、なんて下衆の勘繰りも(笑)。

本日のツッコミ(全14件) [ツッコミを入れる]
kumakuma1967 (2007-01-12 06:52)

医官の場合国家資格を持っている時点で国家I種合格相当という事になるわけですが、採用試験をしていないために、候補者数という意味では技術系I種の中で最も広き門となっている(辞めても代わりはいくらでもいる)というのも理由の一つかもしれません。

竹馬 (2007-01-12 10:13)

獣医さんたちもそうですね。(笑)
自分が知っている医系技官の方が、現場からではどうしても変えられない事が多すぎると言っていたのを思い出します。

ではでは

bn2islander (2007-01-13 11:15)

個人的には、医師の方は医系技官を仲間だと思っていないのではないかと言う思いがあり、さらに言いますと国民が官僚叩きをするのと同じ次元で、医師の方々も医系技官(官僚叩き)をやっているのではないかと思います。

ひとつの、そして極端な解決策として、医療行政は崩壊するに任せ、医師側が自分たちの好きなように制度設計をすればよろしいのでは、と思うこともあります。

bewaad (2007-01-13 12:52)

>kumakuma1967さん
ロースクール制度の発足を踏まえ、一部で(新)司法試験合格組の国I相当採用がはじまった事務系としても、いろいろ学ぶところが多そうです。

bewaad (2007-01-13 12:52)

>竹馬さん
結局どのポストであっても‐事務次官、大臣、さらには総理‐、思い通りにできることは専制国家でない以上限られてくるのが実態でしょう。その中で、多少なりとも、という積み重ねの集積でなにがしかが変わってくるのだと思っています。

bewaad (2007-01-13 12:57)

>bn2islanderさん
>医師の方は医系技官を仲間だと思っていないのではないか
私もそう思うわけですが、意思なり能力なりに疑問が仮にあるとしても、代弁者がいることにはそれなりの意義があるわけで、代弁者がいなくなってから「あんなのでもそれなりに働いていてくれてたんだ・・・」ってなことになってしまうのではないか、と思うのです。

bn2islander (2007-01-13 14:08)

>bewaadさん
私もその意見に賛成します。さらに付け加えるのなら、医師が行うべきである範囲の仕事も、医系技官や厚労省が負担しているのではないかなと思います。

「武見が持っていたさまざまな決定権限は,80年代,90年代を通して厚生省の医療行政に移った。その結果,医療職能集団としての独立性の立場から,どういう医療技術を採るか,また採らないかという本来職能集団全体で決めるべきことまで国が決めて当然という考え方が広まった。役所は国家予算の都合を考えて医療行政を策定するが,国の予算の都合とは別に国民の生命を守るという価値を断固主張する医療職能集団が在るべきだ。それまでも厚生省が決めてくれなければ何もできないような気分になっており,武見に対する依頼心が厚生省に渡っただけ,に近い。」

明日の裁判所を考える懇談会(第13回)協議内容
http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/asu_kondan/asu_kyogi13.html

なぜ医師会が持っていた権限が厚労省に移ったのかに関しては、調べる必要がありそうだとは思います。

bewaad (2007-01-14 05:34)

>bn2islanderさん
医師会というより、武見太郎という個人がかつてはリードしていたということかと思います。で、そこから厚生(労働)省へのパワーシフトがあったというのであれば、
(1)時代の進展とともに調整事項が増え、組織的対応の効率性が相対的に優位になったこと、
(2)まあ個人ですから、最終的には死んでしまうわけで、
といった事情の反映ではないでしょうか。

tonton (2007-01-14 07:38)

医師に限らず、プロフェッショナルな職業というものはある程度の自治を獲得して
いるのが普通に思いますが、日本においてかくも特殊な形態になったのはいわゆる
省益の拡大にあると考えた方がよろしいのではないでしょうか。

組織的対応が効率的であるのならば、医師のギルド内でそのような組織を作れば
よいだけで、国家はそれを指導監督すれば大した人的金銭的コストを費すること
なく、目的を達することができると思います。武見太郎という個人に権力が集中
することへの危機感や、政権政党へのパイプのある後継人材がいなかったこと、
特定の政治勢力に加担することも考慮された結果であって、機能的な医療行政の
あり方とは別な意図が働いたと思います。

bewaad (2007-01-15 03:17)

>tontonさん
昔の医師会があまりにも強かったのでそれに比べれば現状は、というだけで、今でも他のプロフェッショナル団体に比べれば十分に強力なのではないでしょうか。客観的指標はないのであくまでも私の印象論に過ぎませんが、日弁連ぐらいじゃないでしょうか、医師会よりも自主性が強いのは。

tonton (2007-01-16 13:49)

お返事ありがとうございます。
>今でも他のプロフェッショナル団体に比べれば十分に強力
医師会は強制加入ではないので、悪く言うと親睦団体や学術団体の域を出ません。
その決定事項も医師会のメンバーにしか強制力はありません。昨今も移植や不妊
症治療の絡みで、学会のガイドラインから逸脱する治療行為を行った医師の問題
が騒がれていますが、学会をクビにできても、医師の資格をはく奪できないので
今でも普通に医療活動をしているようです。それと同様で、医師会の決定に反し
ても、日本では医業を続けられます。昔と違って、たとえ医師会が反対したとし
ても自由に開業も行えます。志はともかく、口はきけても手を出せません。

一方で、業界団体としては制度的に様々な意見を言う場が多いので強力だという
意見もあります。しかし、実際に政策として実行されるかというと、残念ながら
BSE騒動の時に速やかに在庫買い取りが決定した食肉業界や、道路整備事業にかか
わるここ何年かのゴタゴタを例にあげるまでもなく、政党に影響を与えたりヒアリ
ングの機会を通し直に担当者に意見を言って実行させられる、その他業界団体の方
がはるかに強力な影響力を持っていると思います。

武見時代は医師会に強力な権力があり、さらにその一方で時にアナーキーとも言え
るほどに国の政策に反対し続けたことは、忘れられがちですが重要なポイントだと
思います。転じて昨今の医療界の状況を見れば、製薬会社が莫大な営業利益を計上
して株価の高値を更新する一方で、地方都市の病院がどんどん潰れていき、救急や
お産、小児科医療などが制度として崩壊しつつあります。これらの事実を俯瞰して
見る限り、武見時代の反省から医師会の様々な権能を剥奪し、行政に権力が集中さ
れ、さらに医師会の意見をなるべくいれない事で主従関係をはっきりとさせるとい
う制度運営がなされているとしか思えません。医療行政の崩壊とは、行政の政策と
実際に実行する現場との乖離が限界までに達して、江戸時代の農民が離農、逃散し
たようにその現場にいる人々が次々と脱落していくことに由来する現象だと、私は
思います。制度の行く末が最もよく見える位置にいる医系技官が辞めていくという
話には、技官の待遇よりも、個人の良心に絡む事情が潜んでいるような気がします。

bewaad (2007-01-17 09:12)

>tontonさん
どの団体が強いか弱いかというような話題は、私も印象論を超える根拠を持っているわけではないので、とりあえずは双方の見方がある、ということになるのかな、と思います。

ただ、昨今の医療を巡る状況については、医師会の弱さではなく、勤務医の主張を医師会がくみ取れていないところに原因の一つがあるのではないでしょうか。医師会が勤務医の立場を代弁しているにもかかわらず受け入れられていない、ということではないように認識しています。

tonton (2007-01-19 01:01)

>医師会の弱さではなく、勤務医の主張を医師会がくみ取れていないところに原因
医師会は労組ではなくあくまでも業界団体の一種にあたりますから、労働者で
ある勤務医の賃金や労働環境を云々する立場にはないと思います。

医師会の要望がどれほど尊重され実現されているかについては、詳細な研究が
今後必要になると思いますが、ここでは憶測しか述べることしかできません。
しかし医師会は、医療の量的質的な充実を促進することを志向している団体で
す。多くの病院や医院の経営が安定し、継続的医療活動を行う余地を確保する
ことを目的としていることを疑う人はあまりいないと思います。そこで、これ
を土台に考えてみましょう。

現在の医療の状況は質量ともに低下しつつあり、病院の経営が悪化して多くの
病院が閉鎖、合併、買収などの対象になっています。経営の悪化が不採算部門
の閉鎖や縮小を要求し、その現場は長時間労働が横行し、過労死の危険が増加、
突発的な急患の発生時に医療ミスが頻発し訴訟リスクも急増し、結果、多くの
医師が危険な職場から逃げだすようになりました。そのため、地方での産科や
小児科医療が崩壊しつつあります。これは医師会の指向する方向とは全く逆の
結果が生じていると考えられるでしょう。

これら事実より、医師会の要望は無視されるか有名無実にされてしまっている
であろうことはほぼ自明と考えられます。そして、労働問題ではなく、医業の
経営の不安定さこそが大きな問題であるということも、お分かりになられると
思います。

bewaad (2007-01-19 03:43)

>tontonさん
情報提供ありがとうございます。

なお、勤務医云々は、小松本を読んだことなどから得た私の思いでして、何が具体的に知っていることがある、というわけではありませんので、何も益になるような別の観点等を紹介できないことをお許しいただければ幸いです。

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